世界の宝石採掘現場の実態について

誰もがその美しい宝石のスタート地点、採掘の現場を想像することはないと思います。文字通り泥まみれになった男たちが、炎天下の中、あるいは湿気と暑苦しさで息も詰まるような採掘坑の中で、毎日死ぬほど厳しい採掘作業を行っている荒々しい場面です。

ドロボウ

世界一小さな財産である宝石は、最もドロボウしやすいものの一つ。採掘の歴史が始まった遥か古代から、採掘地におけるドロボウたちは見張りの目をかいくぐり、実に巧みな方法で原石を持ち出し続けてきました。

口の中、耳や鼻の穴、衣服の折り目や裏などは隠し場所としては当たり前の場所で、原石を飲み込む、虫歯の中、肛門や性器の中、排出物の中など、普通の人には考えられないような方法が取られていたようです。小石ぐらいの大きさのものでも、ダイアモンドならば数億以上に上る値段が付けられる場合もあるのですから、その気持ちも分かるような気がします。

そのため、採掘場の作業員たちは、毎日の作業の開始、終了時には毎回衣服を全て脱ぎ捨て、素っ裸になって身体検査を欠かさずに受けさせられていたようです。それでもなお、盗難による流出は防ぎようがなかったようです。比較的他の諸外国よりも採掘場ドロボウが少ないスリランカにおいても、採掘穴から運び上げた宝石を含む砂利を盗まれないように、採掘場では毎日、監視員が夜も寝ずに監視をし続けています。

宝石ドロボウは採掘場だけではなく、次の工程であるカッティングと研磨の状態でも頻発し、大きな問題となっています。カット研磨業者、あるいは技師が採集された原石のカット研磨の依頼を受けた時に、その依頼原石が多量であった場合などは目に付かない量をニセモノとすり替えてしまい、何食わぬ顔で「作業は全て完了しました」と言って依頼者に渡すのです。

消費者に直接触れることもある土台加工業者でさえも、顧客に作成を依頼された後すり替えを働き、ニセモノや品質の落ちる同じ石を止め付けて渡すという悪行を働いているという話も聞きます。油断もスキもないのがこの宝石業界なのです。

そのため、宝石を取り扱う業者はもちろん、消費者も自分の宝石を購入したら、ルーペや拡大鏡などで自分の石の特徴をまじまじと観察し、よく覚えておかなければなりません。その作業を怠らなかったら、天然の宝石は同じものが二つとない人間の指紋のようなものですから、ある程度の犯罪は防げると思います。

採掘地の人々の生活

世界有数の宝石の産出国スリランカでは、現在でこそ採掘量が大幅に減少してしまいましたが、一昔前まではそれこそ、イモ掘りをするように大物の宝石が採取されていました。採掘穴は現代のように苦労して地下深くまで掘り下げる必要は全くなく、畑を耕すような露天掘りでもどんどん見つかる状態だったそうです。

モノがあれば人も集まる。現在でも採掘地付近の街には露天宝石取引をする人、カットや研磨の工房、その道具屋など、宝石関係者の家々が建ち並んでいます。町民全体が何らかの形で宝石と関わりのある仕事に就いているのです。

その中でもひと山当てた採掘地主などは豪邸を持っていて、その広さ、ゴージャスさは目を見張るほどです。彼らの家を見ていると宝石がいかに儲かる商売であるかを物語っているようにも見えます。一般の人たちでが庭や畑の手入れ作業などをしている時でさえも数多くの宝石を発見できたほどだったそうです。

こんな状況ですから、採掘地付近の民家にお邪魔すると、だれしもが「隠し宝石」を持っていて、お願いするとどこからか自分のコレクションを持ってきて、見つけた時のエピソードとともに見せてもらえます。そして、だれしもが「昔はよかった...」とため息交じりに口ぐちにそう言います。

ほぼ街中や町周辺の目ぼしい場所は掘りつくされているのですが、現代でも手つかずで残されている唯一の場所があります。そこを掘れば必ず大物が見つかるだろうと言われているのが、街中を走る主要道路のアスファルトの下。そして、町はずれにある軍のキャンプの敷地内です。ことに軍のキャンプ内は一般人は厳重に立ち入り禁止となっています。だれかがここに無断で侵入し、採掘を行うようなことがあれば、軍の監視員は現行犯で射殺できる許可も持っているそうです。

宝石加工過程

宝石の採掘現場の方々がどんなに頑張っても、地球が悲鳴を上げて値打ものの産出がどんどん減少している現況をどうにか逃れるべく、原石発見後の「人手による加工」により宝石の値打ちをグレードアップさせる隠しテクニックが発達し続けています。

その中でも残念ながら手つかずの天然石に対して当然のように行われるようになってきてしまっているのが、宝石の価値を決めるための一つのポイントとなる「色」を変化させるべく、「焼き」と呼ばれる、原石に熱加工処理を施す方法です。焼きを施された原石の色は元の色よりも色味の深い鮮やかなものとなり、そのことはもちろんお値段にも直結、金銭的価値をぐっとアップさせます。

問題は熱加工処理を施したものでも「ニセモノ」にはならず、本物の天然石として販売されることは違法にはならないのです。そして、熱加工処理が施されたものか、そうでないものか見分けるためにはよほど専門的知識を持った人でないと判断ができないのです。

宝石自体の大きさよりも品質を重視する日本マーケットのバイヤー達は、熱加工処理が行われていない宝石により重点的に目を向けてビジネスを行っている傾向が強い様ですが、まだまだ世界各国のバイヤーたちは見たもの全てで、熱加工処理が施されていようといまいと、より大きくて色のよいものだけを追いかける傾向が目立っています。

そんな背景の中、熱加工処理を施すことができる技師を抱えた原石買い取り業者を始めとする中間業者は利益をキープできますが、採掘業者の利益は以前のままなのです。どうにか彼らのひたむきな努力が報われる世界宝石マーケットに傾いて行って欲しいものです。

伝統を伝える

現代日本の現状において、農村の過疎化は大変深刻な問題で、どうにか打つ手を考えてはいるものの、その進行に歯止めをかけることができず深るみにはまっていくばかりです。こういう社会現象は世界各国で共通しているのですが、宝石採掘業界でも同様のことがいえます。

各採掘現場を覗いてみると、若々しくパワフルに働く人よりも、40代後半から50代の人が目立つような気がします。ですが、農業とは違いまだ未来は明るく思える要素は、例え採掘作業は行わなくても、宝石に関係した仕事に就業する若者も多いようです。このことに関して世界有数の宝石産地スリランカの方に直にお話しを伺う機会がありました。

この26歳の女性の方の父親は採掘現場で働く作業員で、幼いころから宝石を目にしたり触れたりする機会も多かった彼女は、義務教育終了後、近隣の加工工房に就職して原石のカットや研磨を行うテクニックを学んだそうです。その後、技術に自信がついたところで自宅の一角に宝石加工工房を作り、独立後は父親の働く採掘現場から採掘された宝石の中でも、手作業で加工を施さなければならない宝石専門の加工師になりました。

彼女はこの国で産出される全ての宝石に絶大な自信と誇りを持ち、「自分がこの宝石の街に産まれて、宝石の原点に携わる仕事を持つ父親の娘として産まれて本当に幸せなことだと思う。父親が買ってくれたこの機械を大切にして、自分の子供にも技術を教えて行きたい」と話していました。

スリランカの場合、他国の採掘現場よりも「働かされている」という雰囲気がなく、「好きだから携わっている」という職業意識のもとに就業している人が多いためという現実も去ることながら、古代から培われた、失くしてはならない伝統を次の世代に伝えるためにもこういう若者の気持ちは本当に大切にしていかなければならないと強く考えさせられます。

実際問題として、宝石に関わる仕事は採掘ばかりでなく、それを製品として仕上げるまでの加工工程も本当に重要で、例え数千万円の価値があるような原石でもカットと研磨の技術一つでゴミクズに代わってしまう場合もあるのです。

このような伝統や人々を守るために、国家ぐるみで環境を守りながらも宝石産業を保護するための政策や資金繰り、また世界的な援助も必要不可欠なものとして考えて行かなければならないのだと思います。

自分の宝石を見直す

あらゆる物がどんどん生産されて世の中に有り余るほど溢れ、消費者はお金さえ払えば欲しいものを何でも手に入れて、その後使い古したものは何のためらいもなく、飽きたものでさえもどんどん捨てる、物置の肥やしとなる時代は終焉を迎えようとしています。現代はエコ社会へと変貌し、「できるだけ無駄遣いを失くす」「リサイクルを考える」ということが生活の主流となっています。

宝石に関しては買い取りショップが一般化し、使わなくなった宝石や貴金属をお金に換えるビジネスは、こんな時代背景に乗っ取り、かなり成功して店舗数を増やしている様子が伺えます。

ですが、ここで日本の人々が知る由もない世界の採掘現場についていろいろお話ししましたのは、使わなくなって蔵入り、宝石箱入りしてしまっている宝石をリサイクルショップに持って行き永遠の別れをする前に、もう一度その価値や美しさについて裏側に潜むものから見直し、新しい価値観を見出して活躍の場を与えて欲しいと願うからです。

宝石業界を見ると、バブルの時代には今では手も出せないような高価な大物がどんどん購入されていました。ですが、不景気の時代を迎えてみると「不要な物」として捨て値で販売されているのを見ると、宝石は単なる自己満足や富の象徴などとしてのみ考えられていたもののように思えて、何だかとても人間の傲慢さを垣間見るようで寂しく思えます。

採掘場の人々の苦労と努力の結晶である宝石、世界に二つと同じものがない大切なその一つを持っているのは世界広しとはいえ、あなただけなのです。そういう目で今ある宝石を見直し、どんどん新しい活躍の場を与えてあげて下さい。

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